Books

黒川祥子『県立!再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校』

これはA県立槙尾高校(仮称)という学校にまつわる話。 槙尾高校は学力下位校であり、めちゃくちゃ荒れている。 そこに勤務する教員は早くこんな高校から出たいと思っている。 そんな惨状の学校を改革しようといろんな教員が奮起する物語だ。 別に進学校にし…

世界に山積する問題について言及することについて――九段理江『schoolgirl』

最近、マイクロアグレッションという言葉を知った。 マイクロアグレッションとは差別の一種で、社会のマイノリティに対して向けられる偏見や先入観が些細に見える言動を指す。 一見するだけでは差別だとわかりづらく、言った本人に加害の自覚がないというケ…

太田肇『「承認欲求」の呪縛』

承認欲求という言葉が最近いろんなところで使われている。 特に若い子たちの間で使われている気がするのは気のせいだろうか? 正月に「おもしろ荘」という番組がやっていたのだが、そこに出てきた「ぱーてぃーちゃん」、今風のトリオだなとか思いながら、何…

今村夏子『こちらあみ子』(ネタバレ含む)

映画『花束みたいな恋をした』に出てきたというこの小説。 その映画は見ていないんだけど、この作品が映画に出てくるとは、どういった映画なんだろう? と思わずにいられないのは、『こちらあみ子』が極めて怖い小説だからである。 村田沙耶香さんの小説と同…

渡部泰明ほか『国語をめぐる冒険』

前置きなしで書いていきます。 第一章 国語は冒険の旅だ 第二章 言葉で心を知る 第三章 他者が見えると、自分も見える 第四章 言葉で伝え合う 第五章 言葉の地図を手に入れる 第一章 国語は冒険の旅だ 理想と現実。 「理想」は「こうなったらいいなという状…

野﨑まど『タイタン』

あけましておめでとうございます。 年末年始読んでいた小説を紹介して、2022年をスタートします。 あらすじ。 至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。 人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。 しかし、心理学を趣味とする内匠成果…

多様性とは? ――朝井リョウ『正欲』より

多様な性、多様な国籍、多様な病気、多様な趣味・嗜好…… 昨今の多様性ブーム。 SDGsで「誰一人取り残さない」という理念を掲げているように、これからの社会ではこの多様性の理解が必要であると声高に言われている。 確かに耳障りのいい言葉で、否定していい…

松本俊彦『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』

小学生の頃にリストカットを繰り返す女の子がいた。 当時の自分がどう思っていたのかはもう覚えていない。 かわいそう、という思いよりも、なんでそんなことするの? と思っていた気がする。 大学生のころにひょんなことからSNSのTLにリスカ跡の写真が…

朝井リョウ『武道館』

朝井リョウ『武道館』。 一気呵成。 『いちご同盟』以来ではないか、ここまで一気に読み終えた小説は。 実は、私は小説を読むのが苦手だ。 というのは、初めて小説を読んだのは大学生のときで、それまで読書をしたことがなかった(それを誇りに感じていた時…

鴻上尚史『親の期待に応えなくていい』

2018年に滋賀県内で起きた実母殺害事件。 被告は母親から教育虐待を受けていたことが明らかになり、その実態は想像を絶するひどいものだった。 被告は母親から地元の国公立大医学部医学科に入学することを強く求められ、国立大学医学部看護学科に合格するま…

石井志昂『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』

本書は子育てに関する書である。 「不登校」というワードだけで購入してしまったのだが、教員の身である私にもなるほどなと思う部分は多くあったので結果的に買ってよかったかなと思う。 本書に登場する子どもというのは基本的に小学生・中学生あたりを指し…

しろやぎ秋吾『10代のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』

これは作者であるしろやぎ秋吾さんがSNSで『10代のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』と、エピソードを募り、それを漫画化した作品です。 本書がいいところは、数あるエピソードを通して、「10代の○○の悩みについてはこう解決すべきだ」といったふう…

桐光学園+ちくまプリマー新書編集部『学ぶということ』

内田樹・岩井克人・斎藤環・湯浅誠・鹿島茂・美馬達哉・池上彰(敬称略)の7人が「学ぶということはどういうことか?」という問いについて答えてくれた本である。 3人だけご紹介する。 ①生きる力を高める 内田樹 グローバル化によって海外進出を視野に入れ…

池澤夏樹『スティル・ライフ』の冒頭

池澤夏樹の『スティル・ライフ』という小説。 冒頭が美しい。 この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている…

内田和俊『10代の「めんどい」が楽になる本』

昔はよかった、という言葉をよく聞く。 私自身、そう思っているところもある。 まず人付き合いに関して、スマホの普及から、人との距離が遠くなったように思う。 月並みな意見だけど。 SNSの普及により、ひとは承認欲求モンスターと化し、現実世界を生きてい…

瀬尾まい子『図書館の神様』

なんか先入観でこの小説を図書館司書のおばさんが中学生の男の子に文学を通して人生の教訓を垂れる話だと思ってたけど、全然違ってた。 主人公は若い女性教師(常勤講師)で文学に興味がないのに文芸部の顧問をもたされて不満に思っている。文芸部にいたのは…

言葉と思考の乖離 村上春樹『螢』から

村上春樹『螢』という小説の中で、名前のない〈僕〉の恋人(元恋人といったほうが正確か)が言ったセリフ。 「うまくしゃべれないのよ」 「ここのところずっとそうなの。本当にうまくしゃべれないのよ。何かをしゃべろうとしても、いつも見当ちがいな言葉し…

桑原朱美『保健室から見える親が知らない子どもたち』

NLPという心理療法がある。 Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラム)の略称で、別名「脳と心の取扱説明書」と呼ばれる最新の心理学であるそうだ。 「人間が苦しんだり、喜んだり、立ち直ったりする本質的なしくみ」「人間が変化し成長していく原…

齋藤孝『新しい学力』

これからの時代、「生きる力」が求められている。 文部科学省は「生きる力」について以下のように定義づけている。 ・基礎的な知識・技能を習得し、それらを活用して、自ら考え、判断し、表現することにより、さまざまな問題に積極的に対応し、解決する力 ・…

長沼睦雄『10代のための疲れた心がラクになる本』

10代にはさまざまな悩みがある。 精神的な疲れであったり、それが身体的な疲れであったりもする。 まずは、身体の不調について述べるが、私は医学に関する知識は皆無であり、それなのに「〇〇症」などと訳知り顔で書くという蛮行を、今回私が紹介する『10代…

Jam『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ』

本作は、Jゲームグラフィックデザイナー、イラストレーター、漫画家の三つの肩書を持つJamさんの著書です。 日常で怒る人間関係の悩みをかわいらしいネコちゃんを中心に描いた漫画がたちまと話題になり、それが本書『多分そいつ、今ごろパフェでも食ってるよ…

鈴木裕介『メンタル・クエスト』

人生ハードモード。 親ガチャ。 人生周回遅れ。 などなど、よく人生は「ゲーム」にたとえられます。 たとえられるどころか、「ゲーム」を心のよりどころにして、現実世界から目をそらそうとしているひとも多くいます(それがいいか悪いかは今の時点では述べ…

働くって何?

なぜ働くの? この問いに対して、いろんな答え方ができるでしょう。 今回は、「なぜ働くのか?」という大きな問いをテーマに、つれづれなるままに記述していきたいと思います。主に、高校生・大学生に向けた話になると思います。 1.仕事って何? 2.自分の適…

石戸奈々子『賢い子はスマホで何をしているのか』

GIGAスクール構想というものがある。 これは「全国の児童・生徒1人に1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する」という取り組みのことである。 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2023年度までを目処に構想の実現を目指していたが、前倒しさ…

犬塚美輪『14歳からの読解力教室』

大学二年生ぐらいまでろくに本を読んだことがなかった。 文庫版の小説を初めて読んだのが大学二年生の夏ごろ。 たしか、『君は月夜に光り輝く』だったと思う。 一般文芸すら敷居が高いと思っていたので、ライト文芸から肩慣らし。 そっからしばらくライト文…

鎌田實『相手の身になる練習』

現代文の読み方について。 まず、読み手の主観はいったんどける。 そして筆者の意見に対してこびへつらうように読む。 なんだか嫌な感じだな、と思われるかもしれないが、実はこれ、いわゆる客観的な視線を持つためのトレーニングでもある。 言ってしまえば…

石田衣良『5年3組リョウタ組』

久々です。 試験とかで忙しくて更新できていませんでした。 はい、言い訳はさておき。 石田衣良『5年3組リョウタ組』 主人公は中道良太という茶髪でネックレスをつけたチャラい感じの25歳の小学校教師。聡明というわけではなく、熱い教育理念を抱いているわ…

宮口幸治『どうしても頑張れない人たち』

あの『ケーキを切れない非行少年たち』の著書・宮口幸治氏が著した本。 ケーキの切れない非行少年たち 作者:宮口 幸治 新潮社 Amazon zzzxxx1248.hatenablog.com 『どうしても頑張れない人たち』 『ケーキを切れない非行少年たち』では、認知機能が弱く、感…

三部けい『僕だけがいない街』

『僕だけがいない街』って漫画を読んだ。 ジャンルとしては、ミステリー×SF(タイムリープ系) (今はやりの『東京卍リベンジャーズ』もそうだな) けっこうおもしろかった といえば、上から目線っぽいので すなおにおもしろかった 個人的に、登場人物の信念…

古宮昇『傾聴の基本』

聞き上手という言葉があるが、それは話を聞くのがうまい、つまり、話をしていて楽しいとか安心できるとかそういったひとのことを指すのだろう。話をしている最中に、自分の話をし始めたり、リアクションがなかったり、そういったひとは残念ながら聞き上手と…