自由思考

20XX年通天閣の上空に大きな浮遊物体が現れた!!!

 

 宗教家の意見

「あの浮遊物体は人々の思念が具現化した存在なのです。だから恐れる必要はありません」

 

 科学者の意見

「浮遊物体、ええ、名前はスカイA(名称をつけることでその浮遊物体を何とか日常の領域内のものにしようとする)。スカイAを構成する物質の中にエキゾチック物質的な物質があって。エキゾチック物質というのは、負のエネルギーを持つ物質のことで、正のエネルギーが引力であるのに対し、負のエネルギーは斥力ですね。そんなエキゾチック物質……的な物質Xで構成されたのではないか、と。『的な物質』などと曖昧な言い方になってしまうのは致し方ないことなのです。そもそも、エキゾチック物質自体が素粒子物理学における概念的存在です。つまり、架空の物質で、自然界でその存在は認められていませんので、Xをエキゾチック物質であると断定することはできないのです。しかし、Xに斥力効果があることは認めていいと思います。物体が浮かんでいますから。」

 

――突然、現れた理由は?

 宗教家の意見

「前に述べた通りだ。あれは人々の思念のあらわれなのだから、突然現れてもおかしくないだろう」

 

 科学者の意見

「『ワーム・ホール』によって現れたのではないかと。『ワーム・ホール』。アインシュタインとローゼンが発表した時空構造モデルの『アインシュタイン―ローゼン橋』をホイーラーが『ワーム・ホール』と命名したのですが、その『ワーム・ホール』とは簡単に言いますと、宇宙のある一点から別の点へ、宇宙の中を通ることなく移動することを可能にするトンネルのようなものです。アインシュタインによると、宇宙は空間と時間によって構成されていて、平板で硬いものではなく、弾力を持った柔らかいものだというのです。そして、柔らかいベッドの上に重たい球体──例えば、ボーリングの球のような──を載せると変形するのと同じように、宇宙の中に地球があることで時空が湾曲するのです。この時空の歪みによって、宇宙のある点と別の点が接続され、『トンネル』が形成される。それが『ワーム・ホール』というわけです。しかし、ホイーラーによると、この『ワーム・ホール』は消滅を繰り返したりと動的な存在で、更には大きさが直径一〇のマイナス三五乗メートルほどしかないのです。この極小の『ワーム・ホール』を大きくするためには、エキゾチック物質が要されると言われています。そう。先ほど申し上げた、物質Xとの融合によって『ワーム・ホール』の肥大化がなされた。その肥大化した『ワーム・ホール』を通って、浮遊物体はこの世界にやって来た。それで浮遊物体にエキゾチック物質的物質がまとわりつき、あのように浮遊状態を保っている」

 

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 そもそも、なぜ物質である脳が意識を伴うのか?

 

 物質が意識を生じさせるなら、机にだって、レンガにだって、帽子にだって意識が宿ってくれてもいいように思う。

 

 ちょっと怖い話

 

 ベンジャミン・リベットは、人間が何かをしようと意志を起こすとき、実はその意志を起こすりよりも前に本人のあずかり知らぬところで既に脳が反応しているという実験結果を得たそうだ。

 

 「意識」によって「脳」に作用を加えることは出来ない。

 

 まるで「私」達が、「自分」という座席に座ったこの人生の観客のように。

 

 松尾正太郎は言っている。

 宗教家。

 中村文則『教団X』の登場人物。

 虚構の話だけど、けっこうすごいこと言っちゃってるよね。

 

 脳がすべてを決め、この私「意識」はただそれをなぞっているだけです。

 

 めっちゃ怖い。

 

 この世は舞台、人はみな役者だ。

 

 シェークスピアは言う。

 

 マジにこの世界が舞台で、その上を自分が与えられた役を自分の関知の及ばないところでマリオネットみたいに操られながら演技しているっちゅう考え。

 でも、私は自分の意思で動いているって思ってる。

 うわ、こわ。

             こわ。

 

 でも、そう考えたら、気張らんでいいんやなって安心しちゃうところもある。

 

 ようは気の持ちようかな?

 

 科学の発達によって、人間は訳の判らないものへに必要以上に恐れるようになったと思う。また、今世間を騒がせているコロナウイルスも感染力がどうとか死者何人出たとか判っていて、ワクチンはできてないってこと判っているから怖い。昔やったらハイパー加持祈祷で自分たちを安心させようとしてただろうから、逆にそれで安心してたかもしれない。

 

 着地点が、「考え方次第」になりそう。

 

 最初に書いた宗教家と科学者の意見について、訳の判らないものが現れた際、どんな反応を示すか考えてみた。

 

 俺的には宗教家の意見を信じたいな。

 

 もし科学者が言えばそれが真実に思っちゃうし、それだと斥力効果を持つ物質の存在やワーム・ホールなどのSF的な事象を肯定することになって、科学の常識が一気に崩れてしまい、もう世界中てんやわんやになる。

 

 脳のメカニズム自体まともに解明されていないんだから、そもそもビッグバンも解明されていないんだから、「何でしょうね? あの物体」って感じでテキトーに言っちゃってもいいと思う。

 

 UFOも未来人も、おる。

 

 そう考えた方が楽しい。

 

 ま、結局は「考え方次第」じゃね。

 

(引用文献)

中村文則『教団X』(二〇一四年、集英社

 

 

自由思考

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  • 作者:中村文則
  • 発売日: 2019/07/05
  • メディア: 単行本
 
教団X (集英社文芸単行本)

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