2021-01-01から1年間の記事一覧

多様性とは? ――朝井リョウ『正欲』より

多様な性、多様な国籍、多様な病気、多様な趣味・嗜好…… 昨今の多様性ブーム。 SDGsで「誰一人取り残さない」という理念を掲げているように、これからの社会ではこの多様性の理解が必要であると声高に言われている。 確かに耳障りのいい言葉で、否定していい…

松本俊彦『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』

小学生の頃にリストカットを繰り返す女の子がいた。 当時の自分がどう思っていたのかはもう覚えていない。 かわいそう、という思いよりも、なんでそんなことするの? と思っていた気がする。 大学生のころにひょんなことからSNSのTLにリスカ跡の写真が…

第166回直木賞予想

今週、166回芥川賞・直木賞の候補作が発表されるということで! 候補作の予想をしてみようと思います。 もちろん全部読んでません。 全部読んでないのに候補作の予想をするという蛮行をどうか許してください。 予想① 一穂ミチ『パラソルでパラシュート』 一…

正しさの享受

自分のこと正しいと思ってるんやろ! と言われたのですが、 人間誰しも自分のことを正しいと思っているはずです。 誰かにとっての正しさと誰かにとっての正しさがぶつかることで喧嘩は生じる。 だから、価値観の異なる人間同士が共存するために、お互いにと…

朝井リョウ『武道館』

朝井リョウ『武道館』。 一気呵成。 『いちご同盟』以来ではないか、ここまで一気に読み終えた小説は。 実は、私は小説を読むのが苦手だ。 というのは、初めて小説を読んだのは大学生のときで、それまで読書をしたことがなかった(それを誇りに感じていた時…

鴻上尚史『親の期待に応えなくていい』

2018年に滋賀県内で起きた実母殺害事件。 被告は母親から教育虐待を受けていたことが明らかになり、その実態は想像を絶するひどいものだった。 被告は母親から地元の国公立大医学部医学科に入学することを強く求められ、国立大学医学部看護学科に合格するま…

お悧巧さんの憂鬱

太宰治の作品でいちばん好きなのは『葉桜と魔笛』だ。 ミステリー仕掛けの、切ない物語。 好きなセリフがある。 「姉さん、あの緑のリボンで結んであった手紙を見たのでしょう? あれは、ウソ。あたし、あんまり淋しいから、おととしの秋から、ひとりであん…

石井志昂『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』

本書は子育てに関する書である。 「不登校」というワードだけで購入してしまったのだが、教員の身である私にもなるほどなと思う部分は多くあったので結果的に買ってよかったかなと思う。 本書に登場する子どもというのは基本的に小学生・中学生あたりを指し…

しろやぎ秋吾『10代のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』

これは作者であるしろやぎ秋吾さんがSNSで『10代のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』と、エピソードを募り、それを漫画化した作品です。 本書がいいところは、数あるエピソードを通して、「10代の○○の悩みについてはこう解決すべきだ」といったふう…

桐光学園+ちくまプリマー新書編集部『学ぶということ』

内田樹・岩井克人・斎藤環・湯浅誠・鹿島茂・美馬達哉・池上彰(敬称略)の7人が「学ぶということはどういうことか?」という問いについて答えてくれた本である。 3人だけご紹介する。 ①生きる力を高める 内田樹 グローバル化によって海外進出を視野に入れ…

池澤夏樹『スティル・ライフ』の冒頭

池澤夏樹の『スティル・ライフ』という小説。 冒頭が美しい。 この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている…

傲慢な悩み

俺は比較的恵まれた家庭で生まれ、両親は仲が良く、何かしたいと言えばさせてくれるような環境の中で育ってきた。 だから、母子家庭や貧困家庭、両親が不仲といった家庭で育った子の悩みや、家族内にケアを必要とする人がいてそのケアをしなければならないヤ…

内田和俊『10代の「めんどい」が楽になる本』

昔はよかった、という言葉をよく聞く。 私自身、そう思っているところもある。 まず人付き合いに関して、スマホの普及から、人との距離が遠くなったように思う。 月並みな意見だけど。 SNSの普及により、ひとは承認欲求モンスターと化し、現実世界を生きてい…

嫌味に費やすほど人生長くない

ゲーム実況者のレトルトさんの動画をよく見るんだけど、主人公モデル(八神という)がキムタクのゲーム「LOST JUDGMENT」にて、ぐっときたセリフがあった。 いろんな事情があって(人間関係)バスケ部を辞めたいという女子高生。でも、彼女は逃げて辞めるこ…

瀬尾まい子『図書館の神様』

なんか先入観でこの小説を図書館司書のおばさんが中学生の男の子に文学を通して人生の教訓を垂れる話だと思ってたけど、全然違ってた。 主人公は若い女性教師(常勤講師)で文学に興味がないのに文芸部の顧問をもたされて不満に思っている。文芸部にいたのは…

言葉と思考の乖離 村上春樹『螢』から

村上春樹『螢』という小説の中で、名前のない〈僕〉の恋人(元恋人といったほうが正確か)が言ったセリフ。 「うまくしゃべれないのよ」 「ここのところずっとそうなの。本当にうまくしゃべれないのよ。何かをしゃべろうとしても、いつも見当ちがいな言葉し…

桑原朱美『保健室から見える親が知らない子どもたち』

NLPという心理療法がある。 Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラム)の略称で、別名「脳と心の取扱説明書」と呼ばれる最新の心理学であるそうだ。 「人間が苦しんだり、喜んだり、立ち直ったりする本質的なしくみ」「人間が変化し成長していく原…

齋藤孝『新しい学力』

これからの時代、「生きる力」が求められている。 文部科学省は「生きる力」について以下のように定義づけている。 ・基礎的な知識・技能を習得し、それらを活用して、自ら考え、判断し、表現することにより、さまざまな問題に積極的に対応し、解決する力 ・…

話を聞かぬ野蛮人

話を聞かない人がいる。 Twitterでも話題になっていた言葉がある。 「バカでもわかるように説明に工夫したところで、そもそもバカは説明を聞いてない。」 言葉は悪いが、まさにその通りだと思う。 そうなってしまえば、言葉など無意味と化す。 実際、人類み…

長沼睦雄『10代のための疲れた心がラクになる本』

10代にはさまざまな悩みがある。 精神的な疲れであったり、それが身体的な疲れであったりもする。 まずは、身体の不調について述べるが、私は医学に関する知識は皆無であり、それなのに「〇〇症」などと訳知り顔で書くという蛮行を、今回私が紹介する『10代…

Iメッセージの発見

Fラン大学就職チャンネル (改めて名前がよくない。内容はすごいのに、名前のせいで敬遠されている気がする) 毎度毎度心に刺さる話ばかりで驚かされる。 今回ばかりは、書かねばならぬと思い、筆を下しました。 はい。 この話、ようはインフルエンサーの言…

悪い!

未成年が犯罪を犯した 未成年が悪い! 未成年は日常的に母から虐待されていた 母が悪い! 父親はあまり家に帰ることなく家事・子育てすべて母親に丸投げだった 父が悪い! 家庭環境が悪いのは近所で有名だった 近所の人が悪い! 児相が悪い! 家庭環境が悪い…

平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

平野啓一郎氏の提唱した分人主義について語っていきたいと思う。 実はどこの出版社だったか忘れたが、この分人主義について取り上げていた国語の教科書もあって、世間に浸透しつつあるのかな、とか、認められつつあるのかな、とか思っている。 ①私とは? ②個…

生きづらさについて

「いい子」を演じ続けた結果、見失う生きる意味 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net) 上の記事についてまとめていきたいと思います。 まとめるだけです。 自分の意見は排していますが、…

Jam『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ』

本作は、Jゲームグラフィックデザイナー、イラストレーター、漫画家の三つの肩書を持つJamさんの著書です。 日常で怒る人間関係の悩みをかわいらしいネコちゃんを中心に描いた漫画がたちまと話題になり、それが本書『多分そいつ、今ごろパフェでも食ってるよ…

鈴木裕介『メンタル・クエスト』

人生ハードモード。 親ガチャ。 人生周回遅れ。 などなど、よく人生は「ゲーム」にたとえられます。 たとえられるどころか、「ゲーム」を心のよりどころにして、現実世界から目をそらそうとしているひとも多くいます(それがいいか悪いかは今の時点では述べ…

働くって何?

なぜ働くの? この問いに対して、いろんな答え方ができるでしょう。 今回は、「なぜ働くのか?」という大きな問いをテーマに、つれづれなるままに記述していきたいと思います。主に、高校生・大学生に向けた話になると思います。 1.仕事って何? 2.自分の適…

気持ち悪い、優しい世界

「桃太郎」が女の子「桃子」の紙芝居 小学生ら偏見や差別を学ぶ 桃太郎が性差による偏見の解消という理由で桃子という名前に変更され、鬼退治は野蛮であることを理由に鬼と話し合いをすることで和解を求めるストーリーに変更された。 温室、純粋培養、優しい…

石戸奈々子『賢い子はスマホで何をしているのか』

GIGAスクール構想というものがある。 これは「全国の児童・生徒1人に1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する」という取り組みのことである。 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2023年度までを目処に構想の実現を目指していたが、前倒しさ…

犬塚美輪『14歳からの読解力教室』

大学二年生ぐらいまでろくに本を読んだことがなかった。 文庫版の小説を初めて読んだのが大学二年生の夏ごろ。 たしか、『君は月夜に光り輝く』だったと思う。 一般文芸すら敷居が高いと思っていたので、ライト文芸から肩慣らし。 そっからしばらくライト文…