くだらないことはくだらないことではないし、生きがいを与えうるものである

 情報に溢れている社会だから。

 考えないといけないことで山積みの世界だから。

 しないといけないことが多すぎる毎日だから。

 

 朝井リョウ『どうしても生きてる』に収録されている「七分二十四秒め」

 

 明らかに東海オンエアをモデルとしたであろうトヨハシレンジャーなる男五人組のユーチューバーが登場する。

 そのユーチューバーの動画をくだらないとか意味がないと思っていた女主人公がしだいに、彼らの出す動画を心待ちにするようになるという話だ。

 

 女性が女性として生きること。この時代に非正規雇用者として働くこと。結婚しない人生、子どもを持たない人生。平均年収の低下、社会保障制度の崩壊、介護問題、十年後になくなる職業、健康に長生きするための食事の摂り方、貧困格差ジェンダー。生きづらさ生きづらさ生きづらさ。毎日どこに目を向けても、何かしらの情報が目に入る。生き抜くために大切なこと、必要な知識、今から備えておくべきたくさんのもの。それらに触れるたび、生きていくことを諦めろ、そう言われている気持ちになる。

 

 情報に溢れている社会だから。

 考えないといけないことで山積みの世界だから。

 しないといけないことが多すぎる毎日だから。

 

 生きていくうえで何の意味もない、何のためにもならない情報に溺れているときだけ、息ができる。

 

 情報に溢れている社会だから。

 考えないといけないことで山積みの世界だから。

 しないといけないことが多すぎる毎日だから。

 くだらないことで騒ぐ(悪い意味ではないです)ユーチューバーは必要とされているのかもしれない。

 

 世の中にはびこる諸問題に対面し続けることの息苦しさから解放してくれるのは、いつだってくだらないことだと思う。

 

 私はキヨ、レトルト、牛沢、ガッチマンのゲーム実況者のグループ「TOP4」(自称)が好きで、よく動画を見る。当然、そこには学びなんてひとつもない。ゲームを楽しそうにプレイしているのを見るだけである。それぞれの実況者は個人実況がメインなので、TOP4名義で動画を出す頻度はそれほど多いわけではない。だから、毎日毎日、午後五時くらいになると、TOP4として動画が出ていないかいつも気になる。一時間越えの動画が出ていたら、うれしく感じるし、それを見ることが生きがいにもなっている。もはや中毒者の域だ。

 

 情報に溢れている社会だから。

 考えないといけないことで山積みの世界だから。

 しないといけないことが多すぎる毎日だから。

 学びのない、くだらないことに、生きがいを求めている。

 そう考えると、くだらないことは、まったくくだらないことではない。