野﨑まど『タイタン』

 あけましておめでとうございます。

 年末年始読んでいた小説を紹介して、2022年をスタートします。

 

 あらすじ。

 

 

 至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。

 人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。

 しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、

 世界でほんの一握りの≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。

 「貴方に≪仕事≫を頼みたい」

 彼女に託された≪仕事≫は、突如として機能不全に陥った

 タイタンのカウンセリングだった――。 

 

 

 仕事はすべてAI(タイタン)がやってくれる未来の社会を舞台に繰り広げられる話。

 仕事とは何か?

 働くとはどういうことか?

 そんなことを考えさせられた一冊だった。

 

 以降はネタバレになるので注意。

 

 作中に「基礎生活塔(ベーシック・スティック)」なるものが登場する。

 それは「タイタンの地域開発が到達していないエリアをサポートする基礎保障施設」であり、塔の上部がエネルギー生産部になっていて、そのエネルギーを用いて大気中の水分から水を作り出す仕組みになっている。

 つまり、基礎生活塔で水も飲めるし電気も使えるようになっている。

 内匠とコイオス(内匠と旅する人格をもったAI)がそれを目撃したのはかなり辺鄙な場所であり、それはつまり基礎生活塔がただ水と電気を作り続けて、だけど誰にも使われないかもしれない可能性があるということを意味する、内匠はそこに「仕事の虚しさ」を感じ、「あの作業は本当に仕事と呼べるのだろうか」と疑問に思った。

 しかし、基礎生活塔を利用している人たちと出会い、内匠は心から安堵した。

 そして、彼女は「誰にも何も与えないことより、誰かに何かを与えた方が“正しい仕事”だと私は感じている」と思うようになった。そして、仕事を「一人ですることじゃないのかもしれない」と思うようになった。

 仕事は他者がいることで初めて成り立つ。

 

 結論から言うと(作中の核となる言葉である)、「仕事とは影響すること」であり、製造業は原材料に影響し、材料から製品を作り出して、人々の暮らしに影響する。小売業、サービス業、第三次産業の多岐にわたる業態、そのすべてが必ず、誰かや何かに影響を与えている。

 だが、タイタン(AI)には自我がない。

 タイタン自身は誰かや何かに影響を与えようが、たんたんと仕事をこなしていくだけだが、人間が仕事をすれば「誰かや何かに影響を与える」だけでなく「影響を知ること」も条件に加わる。仕事をしたことで「仕事をした」と思いたい。仕事をしてどんな影響があったかを知りたがるし、成功したのか失敗したかの答えを知りたがる。結果のフィードバックを受け手、初めて仕事が完結したと思える。

 さらにさらに仕事と結果は見合っている必要がある。

 それらが見合っていると実感したことで「やりがい」を感じる。

 だが、人格をもったコイオスは精神を病んでいて、内匠はその理由として「仕事が簡単すぎて心を病んでいた」と指摘する。仕事が簡単すぎてやりがいを感じなかった。だから精神を病んでしまったのだ、と。

 

 ……

 

 と、AIを物語の装置として大々的に設え、「仕事とは何か?」というテーマを据えたこの小説から学び取ったことはいくつかある。

・仕事は他者がいて初めて成り立つものだ

・仕事は誰かに何かに影響を与えることだ

・やりがい搾取が問題視されているが、やりがいは大切。

・仕事のない世界はユートピアではない。

 以上のことを学び取った。

 

 軽快なタッチでさくさくと読める小説で、どこかライトノベル的なものを感じたが、テーマとしては深遠なものになっている。